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東京高等裁判所 昭和39年(ウ)228号 決定 1964年6月15日

補助参加申出人 名川保男 外一名

主文

本件参加は許さない。

異議により生じた訴訟費用は参加申出人の負担とする。

理由

一、本件補助参加申出の理由は、「東京高等裁判所昭和三九年(ウ)第二二八号仮処分申請事件の申請人らは、同事件において、同庁昭和三八年(ネ)第八四一号事件(理事会決議無効、登記抹消、理事の地位にないことの確認等請求)の本案判決確定に至るまで申請人らが被申請人東洋文化学園の理事であることの地位を仮に定める仮処分を求めているが、申出人らはいずれも現に右学園の理事の地位にあつて、共に右仮処分訴訟の結果について利害関係を有するものであるから、ここに被申請人を補助するため本参加申出に及ぶ。」というにあり、なお参加申出人らは、利害関係の存在につき、本決定末尾添付の別紙記載のとおり申述した。疎明<省略>

二、参加申出人らが本件仮処分訴訟の被請申人学校法人東洋文化学園の理事であることは、右訴訟当事者間に争いのないところである。

しかし、単に同学園理事として右訴訟の結果につき利害関係を有するというだけでは、補助参加は許されないと解すべきであつて、その理由は以下述べるとおりである。

(1)  法人の訴訟追行を現に担当している代表者は、当該訴訟において当事者に準ずる取扱いを受ける関係上、補助参加を許されないものと解するのが相当である。

而して、この場合、右代表者が当該法人の執行機関として右訴訟の結果につき有すべき利害関係も、執行機関としての立場以外で有する利害関係も、等しく顧慮されない結果となるが、前者が顧慮されないのは、現に訴訟追行中の法人自身の利害関係をはなれて、機関としての利害関係をとり立てて保護するに値いしないからでもある。

(2)  現に訴訟追行を担当していない代表者は、これに反し、訴訟の結果につき利害関係を有するかぎり補助参加が許されるものと解すべきであるけれども、この場合においても、右代表者が単に当該法人の機関としての立場で有する利害関係は、前同様の理由により顧慮するに値しないものというべきである。

換言すれば、もつぱら当該法人の機関としての立場においてのみ利害関係を有するにすぎないときは、未だこれを以て民訴六四条にいう「訴訟の結果に付利害関係を有する」場合にあたるものとはいい難い。

(3)  ところで、参加申出人らは本件仮処分訴訟において現に前記学園の訴訟追行を担当していないのみならず、右訴訟において申請人らが勝訴し、被申請学園理事としての仮の地位を得ることになると、同学園理事会における参加申出人らの票決権の比重がそれだけ減少する等参加申出人ら主張の如き影響を生ずることは、疎明をまつまでもなく明らかであるけれども、これらに関して参加申出人らが有する利害関係は、もつぱら同人らが前記学園理事としての立場で有する利害関係にすぎないから(右以外の立場で利害関係を有することは、主張も疎明もない。)、これだけでは本件補助参加を許すに足りる利害関係ありと認めるわけにはいかない。

三、以上の次第であるから、本件補助参加はこれを許さないこととし、異議により生じた訴訟費用の負担につき民訴九四条前段、八九条に従い、主文のとおり決定する。

(判官 菊池庚子三 川添利起 花渕精一)

別紙

一、債権者等が債務者に対し、両者間の御庁昭和三八年(ネ)第八四一号理事会決議無効、登記抹消、理事の地位にないことの確認等請求の本案判決確定に至る迄、債務者学園の理事であることの地位を仮に定める仮処分を求めている本件において、参加人名川保男、同野本良平は現に債務者学園の理事であつて、共に本件仮処分申請事件の結果につき重大な法律上の利害関係を有し、民事訴訟法第六四条に依り訴訟参加をなし得る地位にあることは明らかである。

二、此の点について、債権者等は昭和三九年四月二〇日に行はれた本件口頭弁論期日において参加人等の参加申出につき、口頭をもつて「必要がないと思う」と云うような理由をもつて異議を述べたのである。

併し乍ら右債権者等の陳述は参加人等の求釈明の結果、要するに参加につき異議を述べたものであることが明らかにせられたこと前陳のとおりであるので、これにつき参加人等は次のとおり債権者等の異議の何ら理由のない所以を明らかにするものである。

三、民事訴訟法第六四条にいわゆる利害関係とは、要するに法律上の利害関係を云うのであり、「参加人の地位は財産権上のものだけでなく、身分法上の関係でも又、私法上のものに限らず、公法上例えば刑事関係であつてもよい(兼子一著民事訴訟法体系四〇〇頁)」ものなのである(大審院昭和八年九月九日民三部決定、民集一二巻二二号二二九四頁)。

然るときは、若し債権者等の本件仮処分申請が容れられ、債権者等が本案確定を侍つことなく債務者学園の理事の地位にあることが仮に定められるときは、これによつて直ちに現に債務者学園の理事である参加人両名と理事長乃至理事職務代行者の地位にある谷村唯一郎、大津民蔵、塚本重頼の外に加えて、債権者等両名が理事としてその構成員中に入る結果、理事会の構成が変り、結局法人の業務執行を含めて会議体として起り得るすべての問題に関して、債権者等二名の加入が参加人等の地位に影響を及ぼすことは明らかであり、即ち、このことは又理事としての票決数の増加を意味するもの故、直ちに現在の理事が有する夫々の一票に包含される法律上の構成についての割合(要するに法的価値)に影響を与え、つまりは本件債務者学園における参加人等の理事たる地位、その法的価値を変更せしめるものであることは自明の理であり、このことから又各種、各般の相互の権利義務関係を生ぜしめ乃至は直接的影響を与えるに至ることは蓋し云うをまたぬところである。

これをしも、単純素朴に「参加の必要がない」等と異議の理由を述べる債権者等は、結局法律の解釈において重大なる誤解を冒しているものであり、本件異議のごときは本来とるに足らぬものであると云はなければならない。

前掲学説、判例に加えて現時にあつてもこのことは『訴訟の結果につき「利害関係」を有するとは、自己の私法上又は公法上の地位に法律上何等かの影響を受ける地位にあればよい(三ケ月章著民事訴訟法、法律学全集第三五巻二三五頁)』と広く説かれている所以である。

四、参加人両名は共に以上のような本件仮処分事件の結果について法律上の利害関係を有するものであるから、債権者等の異議は何らその理由なく速かに排斥せらるべきものである。

依つて頭書異議の趣旨に対する答申記載の裁判を求めるため本答申に及ぶ次第である。

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